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ねこっぽ雑記

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連鎖劇「奈落~歌舞伎座の怪人」

【連鎖劇「奈落~歌舞伎座の怪人」】



 歌舞伎役者総出演の連鎖劇(映画+実演)、しかも総監督が勘九郎さんということで一番楽しみにしていたのがこの「奈落~歌舞伎座の怪人」。実際のところは歌舞伎役者総出演ではなかったものの、作品自体はかなり笑えました。以下できるだけ詳しく内容を紹介したいと思います。なにしろ記憶に頼って書きますので間違えている部分もあるかと思いますがその点はどうぞお許しください。

まず最初に映るのは歌舞伎座3階席の中央扉前の映像です。通りかかった男性の携帯が鳴り出し、男性が「携帯の電源は切らなあかんがな~」と言いながら通過します。その後「上映中携帯電話の電源はお切り下さい」のテロップが。早速客席から笑いが起こりました。

 次に銀座の中央通りと晴海通りの交差点の映像。画面左端の方に三越や鳩居堂辺りの大型モニターが映るのですが、よく見るとこのモニターには「新三国志3」の宣伝の映像が映っているんですよ(笑)。そのこだわりっぷりに笑わせてもらいました。

 そして今度は歌舞伎座前の映像となり、雑踏の中から雑誌「芸術界」記者・竹中四郎役の菊之助さんが登場します。菊之助さんが歌舞伎座の正面に立って歌舞伎座を見上げ、画面いっぱいに歌舞伎座が映ったところでタイトルが映し出されます。「総指揮・なかむらかんくろう」のテロップから「ならく」の文字だけを残してタイトルが登場するんです。上手いこと考えたなと思いました。

 タイトルが終了した後、再び竹中四郎が登場。歌舞伎座の楽屋入り口へと入っていきます。そして楽屋口の口番のおっさん(注:口番の“おっさん”という役名なのです)に三津五郎さんの楽屋の場所を尋ねるのですが、この口番のおっさん役が左團次さん(笑)。左團次さんが半被を着て足を組みながら雑誌を読んでいる姿が映し出された途端客席中大笑いでした。四郎は口番のおっさんとのなかなか噛み合わない会話の末、やっと三津五郎の部屋を教えてもらい、楽屋へと向かいます(ちなみに土足のまま上がろうとした菊之助さんを左團次さんが「最近の若い人はお行儀が悪いから困るんですよ」と叱っていた。)。

 四郎が三津五郎の楽屋へ向かうまでにすれ違う人たちがこれまた豪華な面々。まず床山の上田役の團蔵さん。そして上田に何かをお願いしている(?)役者・市川男女媚役が男女蔵さん。團蔵さんは片手にしっかり鬘を持っていました。

 さらに四郎が楽屋を進むとまず立師の菊十郎(尾上菊十郎さんご本人)が通過。そのあとやけに刀をぶんぶん振り回す、髪の毛を後ろにしばった男・中村清兵衛が登場。この中村清兵衛、演じているのがなんと真田広之さんなんです!客席からは歓声と拍手が起こりました。スクリーンに向かって拍手をするというのも変な話ですけど。それにしても真田さんは本当に刀をぶんぶん振るだけで出番終了でした。ちなみにプログラムの配役一覧には「真田広之(大特別出演)」と書かれていました(笑)。

 さらに四郎が楽屋を進むと女形の格好をした中村質之助(もちろん演じておられるのは七之助さん)がぶっきらぼうに通過。そしてその後ろを付いて来るのが質之助の付き人のおっさん。そしてこの付き人のおっさんを演じているのがなんと勘九郎さんなんです(笑)。ご自身の付き人さんの着ている服を借りて撮影に臨んだとのことでした。

 こうして四郎はようやく三津五郎(演じておられるのはもちろん坂東三津五郎さん御本人です)の楽屋に到着。「君のことは聞いているよ。将来有望なんだってね」と聞く三津五郎さんに「いえ、期待の星とか芥川二世とか言われる程度です。」とさらりと答える菊之助さん(三津五郎さんは「……え゛っ」という顔をしていた(笑))。そして四郎は「坂東三津五郎舞台への意気込み」というタイトルで記事をまとめることを打診しますが、三津五郎から「“坂東三津五郎舞台の意気込み”なんて難しいよ。演目によっても意気込みは違うし、第一書ききれないよ」と却下されてしまいます。それでもめげない四郎は「俺が噂の三津五郎だ」とか「三津五郎とゆかいななかまたち」などの案を提示(三津五郎はこれらの提案に「ホントに期待の星なの?」とか「それってただのパクリじゃない」などとあきれていた)。結局無理矢理テーマをまとめて「明日は6時ごろに楽屋に来る」という三津五郎の言葉そっちのけで「それじゃあ明日5時に来ます!」とさらに無理矢理取材を申し込み、四郎は楽屋を去っていきます。ちなみに四郎が「明日はもっと突っ込んだ質問をさせてもらいますから」と言うのに対し、三津五郎が「突っ込むところを間違えないでよ」と答えていたのが笑えました。

 先ほどの四郎と三津五郎の場面の間に、中村尖雀(扇雀さん)、中村快春(魁春さん)、中村隼人(信二郎さん)、中村Fancy芝雀(芝雀さん。本当にこういう役名なのです。)衣装(玉太郎さん)の場面が入ります。「近頃の若い弟子たちはすぐに辞める」と役者たちの間で噂をする場面で、手際の悪い衣装をヒステリックに叱りつける尖雀を快春たちが「そんなに言うから弟子たちがすぐにやめちゃうのよ」などとなだめていました。それにしても扇雀さんのヒステリーは凄かったなぁ。

 次の場面は中村鴈治郎(御本人)の楽屋場面。弟子がすぐに辞めたり逃げ出したりするのをどうにかしようと、鴈治郎と松竹の柳田が話し合う場面なのですが、ここでの見物は松竹の柳田さん。演じておられるのがなんと玉三郎さんなのです!スーツにメガネ、しかも微妙に髭(!)を生やしているように見えました。で、この柳田さん、ボソボソ喋りながらやたらとメガネを触るのが特徴で、この仕草がなかなか笑えました。

 次の場面では雀右衛門さん登場。しかも役名が中村若右衛門なのがうなずけます。「~(弟子の名)、いるかい?」と弟子を呼ぶと「まだ来ていないんです」と京之丞(京妙さん)。携帯も自宅の電話もつながらないと知ると「最近の若い人はきちんとしてないから困るよ。まさか神隠しじゃないだろうね。成駒屋(鴈治郎さん)が(最近神隠しが起きていると)言ってたよ。」と言ってこの場面終了。化粧をした雀右衛門さんのお顔が輝くばかりの美しさでした。

 次の場面は歌舞伎座内の散髪屋。床屋の片岡(亀蔵さん)が暇そうにスポーツ新聞を読んでいると、頭と足に怪我をした市川“友則”染五郎(染五郎さん)がアイスホッケーのスティックを杖代わりにして登場。どうやらアイスホッケーで怪我をしたという設定らしい。「プライド」を見ていなかった私は「あー、『プライド』のパロディか」くらいしか分かりませんでした。ごめんなさい。

 映画の中で一番大笑いしたのは次の團十郎さん、菊五郎さんの場面。市川團十郎(團十郎さん)の楽屋へやってきた尾上聞吾郎(菊五郎さん)がいきなり「夏雄ちゃん、アバヨ(多分アリコのパクリ)って知ってる?」といきなり保険の宣伝を始めるんです。しかも「60歳から80歳までなら誰でも入れて、しかも10年間無事故なら20万円のボーナスがもらえるの」と中身まで本格的(これを菊五郎さんがまじめに話しているところが笑える)。しかもそれらしいテロップまで流れるものだから客席中大爆笑!そしてこの保険の一番の特徴は「最近弟子が“あばよ!”っていなくなっちゃったりしてるけど、このアバヨの保険なら弟子の神隠しも保証してくれるんだ」(by聞吾郎)。この台詞の間聞き手役の團十郎さんは堪えきれずに笑っていました。一方の菊五郎さんは大真面目に演じていて、つくづく「菊五郎さんってすごいなぁ」と思いました。ちなみに最後に資料請求の電話番号まで表示されるんです。41510-0100-0100(ヨキコト―オトワ―オトワ)でした(笑)。

 結局弟子の相次ぐ失踪を心配した團十郎が警察へ連絡をし、すぐに警部の下関と刑事の三浦がやってきます。下関役は翫雀さん、三浦役は弥十郎さんというデコボココンビです。外ではシークレットブーツをはいている下関は楽屋口で「スリッパに履き替えてください」と言われ唖然。結局ズボンの裾を持ち上げながら團十郎の楽屋へと向かいます。

 次の場面では「今成田屋のところに来たのは刑事ですって!?」と狂言作者(梅玉さん)、頭取(東蔵さん)が噂をしているところへ味助(歌舞伎座裏に実在するラーメン屋)の兄ちゃん(獅童さん)が出前にやってきます。弟子神隠し事件を知った味助の兄ちゃんは「テレビに情報を流したら売れるかも。」と二ヤリ。ちなみに獅童さんは味助で実際に使われている岡持ちを持っていたらしくて、小道具協力者の欄に味助と書かれていました。

 さて下関と三浦は早速團十郎の楽屋で取り調べに入りますが、その後連絡の付かなかった若右衛門の弟子は、電車で寝過ごして千葉の方まで行ってしまっていたということが判明します。それを聞いて引き上げようとする下関と三浦に「あの、うちの弟子は寝過ごしてどこまで行ってしまったのか御存知ですかね?それと、こういう時、さっき音羽屋さんが言っていたアバヨの保険ってどんなものなんでしょう?」と真面目にボケる團十郎さんが笑えました。

 團十郎の楽屋を後にした下関と三浦は偶然通りかかった三津五郎とぶつかります。そのままスタスタと去る二人をじっと見つめる三津五郎。その目線が偶然付き人のおばちゃんに行ってしまい、おばちゃんに「あ、あんた今色目使ったでしょ」と言われ、困惑する三津五郎。ちなみに付き人のおばちゃん役は大特別出演の藤山直美さんです。

 その日の終演後、名題下の部屋である弟子(ごめんなさい、どなたが演じておられるのか分かりませんでした)が片付けに追われていると何か人の気配が。振り向くとそこにいたのは吸血鬼三津五郎(笑)。「三津五郎はホモだったのか!?」と勘違いするこの弟子に襲いかかり、気絶したところを奈落へと連れて行きます。

 さて翌日、約束通り取材に来た四郎でしたがどうも楽屋内がいつもと違う様子。近くにいた坂東引込三郎(彦三郎さん)に聞くと口番のおっさんが倒れたとのこと。人々が視線を向けるほうを覗いてみると医者がおっさんを診察しています。

 「やはり検査をしたほうがいいのではないでしょうか」と言う佃助教授(もちろん孝太郎さんです)に前財教授(仁左衛門さん)は「いや、その必要はない。」と断言。「でもこの間みたいに裁判沙汰になってもどうかと思いますし…」と佃助教授が言うとくるりと向き直る前財教授。「君、僕は浪花節大学教授の前財だよ。君は僕の言うことを聞いていればいいんだ。ね。」。もう「浪花節大学」に大笑いです。友人は「そんな大学があったら入りたいわ~」と言ってました(笑)。

 やがて意識が戻ってきた口番のおっさん。しかし「なら……ちか……」と言ってまた倒れてしまいます(白目を剥いて倒れるのが笑えた)。「今、奈良の鹿って言いませんでした?」という三浦に「奈落のことじゃないですか」と声を掛ける中村端之助(橋之助さん)、缶太郎(勘太郎さん)や一蔵(市蔵さん)。ほかの役者たちが不安げに見守る中、下関・三浦は銃を片手に奈落へと向かいます。

 恐る恐る奈落を進む二人はやがて奥に扉があるのを発見。まず三浦が中へ入っていきますが、すぐに悲鳴をあげて逃げ帰ってきます。それを見た下関は様子を確かめるべく扉の中へ。すると白い服を着た人たちが階段の上でこちらに背を向けて座っているのです。「君たち……ここで何しているの?」という下関の問いにそれぞれ振り向く白い服の男たち。彼らは今まで長い間吸血鬼三津五郎に血を吸われつづけていたのです。

 ちなみにこの吸血鬼に血を吸われていた人々の顔ぶれが凄かった。芝翫さん(中村みかん)、幸四郎さん(松本あぁ四郎。バンテリンを片手に登場。)、富十郎さん(中村富九郎)、高麗蔵さん(市川高麗鼠)、友右衛門さん(大谷ぬき右衛門。チューリップを口にくわえて登場。)、段四郎さん(市川段奈。すごく死にそうな演技をしていた。)、時蔵さん(中村とっきー。血の気の引いたメイクが不気味だった。)、愛之助さん(片岡恋之助。何をするでもなくいたって普通。)、福助さん(中村太賀寿。気力がなさそうなのが逆に怖かった。)が皆さん吸血鬼に血を吸われていたんです。それぞれの役者さんのなりきりっぷりが笑えました。でもダントツに時蔵さんが怖かったです。

 その後、自分も吸血鬼に血を吸われそうになった下関は先ほどの扉をあけて逃げ出します。それを追いかける吸血鬼三津五郎。吸血鬼の姿を見た他の役者たちも一目散に逃げ出し、歌舞伎座はパニックになります。そこへ何も知らない四郎が吸血鬼三津五郎を見つけて取材を申し込みますが、四郎もまた三津五郎に血を吸われそうになり、一目散に逃げ出します。血を求める吸血鬼三津五郎はさまよううちに鳥屋へと差し掛かります。


………とここまでが第一の映画部分。ここから実演になり、鳥屋から吸血鬼メイクの三津五郎さんが花道を通って本舞台へとやってきます。その後、大道具役・見物人役の役者、約80人と大立ち回りを演じた後、吸血鬼は下関に襲い掛かろうとします。そしてこの時吸血鬼三津五郎から衝撃(?)の事実が語られるのです。江戸時代、初代三津五郎が西洋からやってきた吸血鬼に血を吸われて以来、永遠の命を持った三津五郎はずっと歌舞伎を演じつづけていたのでした。つまり現在の三津五郎はもちろん初代も3代目も7代目も、全ての三津五郎は全部この吸血鬼だったというわけです。「本当はお前の血なんか吸いたくない。でも今血がなければ俺は歌舞伎ができなくなる。」と下関に迫る吸血鬼三津五郎、嫌がる下関。

 しかしそこへ「あのぉ…みなさんちょっと待ってください」とFancy芝雀が登場。吸血鬼三津五郎に対する芝雀の質問によって、吸血鬼に血を吸われるとまずいことになる一方で、吸血鬼に噛まれるだけなら逆に永遠の命が得られるということが分かります。それを知った役者たちは吸血鬼から永遠の命を与えてもらい、そして吸血鬼が今まで積み重ねてきた芸を教わろうと、吸血鬼とともに奈落へと消えていきます。「結局吸血鬼三津五郎は血を吸えなかったじゃないか」というツッコミをよそに実演部分終了。再び映画部分へ―。


 吸血鬼騒ぎの一部始終を見た四郎は驚きのあまり3階客席から飛び出し、扉にもたれかかります。ようやく落ち着いた四郎が下へ降りようと歩き出したとき、ふと目に止まったのは歴代の名優たちの写真(3階下手側に展示してある写真です)。四郎はこれらの写真に何か手ごたえを感じ、歌舞伎座を後にします。


 この後「この映画を今まで歌舞伎に関わった全ての人に捧げます」のテロップが出た後、エンドロール。出演者の名前の合間に歴代の名優の映像が流れ、それに対する大向こうも聞かれました。


こうして約50分で幕。もちろん客席からは拍手喝采!そこへ花道から付き人の格好をした(笑)勘九郎さんが登場。場内の盛り上がりは最高潮に達します。私も興奮していたので正直なところ勘九郎さんのご挨拶の内容は結構忘れてしまったのですが、とにかく「この映画で言いたかったのは、歌舞伎というのは先人の芸や技術が受け継がれ続けてここまで来たんだということ」というようなことを仰っていました。そして「最後に流れた“今まで歌舞伎に関わった全ての人”というのには、お客さんももちろん入ります」と言ってくださいました。あと「さきほどからずいぶん笑い声が聞こえましたが、この映画は歌舞伎の分かる人でなければ多分全然分からない映画だと思います(笑)。」とも仰ってましたねぇ。あ、そうだ。この作品のDVD化を検討しているというお話もしていました。「メイキング映像も含めて3500円以下で売りたい」とのこと。ぜひぜひ実現してほしいです。こうして「アバヨ、アバヨ」の台詞とともに勘九郎さんは退場されました(笑)。




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